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アイテム
米国RPCを訪問して
https://repo.qst.go.jp/records/55551
https://repo.qst.go.jp/records/555512faf6db3-1b32-41ab-b211-eb513ff5d6be
Item type | 一般雑誌記事 / Article(1) | |||||
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公開日 | 2007-07-24 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 米国RPCを訪問して | |||||
言語 | ||||||
言語 | jpn | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ識別子 | http://purl.org/coar/resource_type/c_6501 | |||||
資源タイプ | article | |||||
アクセス権 | ||||||
アクセス権 | metadata only access | |||||
アクセス権URI | http://purl.org/coar/access_right/c_14cb | |||||
著者 |
福村, 明史
× 福村, 明史× 福村 明史 |
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抄録 | ||||||
内容記述タイプ | Abstract | |||||
内容記述 | がん対策基本法の施行に伴い、がん対策に関する施策の議論が活発化している。日本放射線腫瘍学会の最新の調査によれば、わが国では2005年に放射線治療を受ける年間の患者数が約20万人に達し、急速な高齢化と相まって放射線治療に対するニーズは年々高まってきている。しかしながら、放射線治療を取り巻く環境は必ずしも十分に整備されているとは言えず、同法案に対する参議院の附帯決議においても「放射線療法(中略)については、がん医療におけう重要性が高まってきていることを踏まえ、(中略)これらの分野に関する人材の育成と専門的な教育研究体制の充実を図ること。また、放射線療法の品質管理が十分に行われるよう、適切な措置を講ずるとともに、あわせて、専門的な人材の育成に努めること」とされている。こうした状況の中、筆者は本年2月に、米国における放射線治療品質管理システムの中核的役割を担うテキサス州MDアンダーソンがんセンターの放射線医学物理センター(Radiological Physics Center,以下RPC)を訪問する機会を得た。わずか半日適度の滞在時間であったが、放射線治療に係る品質管理システムの構築を考える上で、大変参考になる点もあったので、本稿で簡単に紹介する。 \nRPCは、MDアンダーソンがんセンターの放射線腫瘍学部門に属する。この部門には臨床系の組織以外に放射線物理部が設置されており、RPCは、この部門に属する社会事業物理(Section of Outreach Physics)の傘下に、線量計の校正等を行うAccredited Dosimetry Calibration Laboratory)等と並列に配置されている。現在RPCはがんセンターとは別のオフィスビルに間借りしており、運営は主として国立がん研究所の資金を元に約30名のスタッフで行われている。RPCは1968年に放射線治療の臨床試験に参加する機関をモニターする目的で設立された機関である。現在でも、放射線治療腫瘍学グループ(RTOG)などと密接に連携し、臨床試験等の品質保証を実施するという点が特徴的であるとの説明を受けた。こうした目的を果たすためのRPCの具体的取り組みとしては、主として治療線量に係る遠隔的調査、施設訪問調査および審査が行われている。 遠隔的調査(Remote Reviews) この調査は、文字通り、郵便、電話、電子メールなどの手段により、全米に点在する放射線治療施設の質を遠隔的に調査する目的で実施される。ここで主体的な役割を果たすのは、熱ルミネッセンス線量計(以下TLD)を用いた線量測定である。RPCはTLDを施設に郵送し、施設は定められた方法でTLDに放射線を照射する。その後、RPCはTLDを回収し解析する。これにより各施設の次のような情報を得ることが可能となる。 a)放射線治療装置の出力線量 b)人体ファントム内のある点での線量 c)TLD調査の履歴に基づく施設の長期的傾向 RPCではこれまでに約30年にわたり遠隔的調査を継続してきた。その規模は、全米にあるがんセンターの約8割をカバーしており、年間で一万を超えるビームに対して調査を行っている(2005年の実績で12391件)。同様の調査は国際原子力機関(IAEA)や欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)でも行われている。またわが国でも厚生労働省科学研究費により郵送ガラス線量計を活用した出力線量調査がパイロットスタディ的に実施されてきた。しかしこれらはいずれも主として上記のaを対象とするもので、RPCの取り組みは質・量ともに他の追随を許さないものである。使用機器や測定法については、TLDとしてはLiF:Mg,Ti(TLD-100)の使い捨てパウダーが用いられ、Harashaw 3500QSによって測定が実施されていた。個々のTLD素子の感度はコバルト標準場での照射によって評価され、またバッチごとにフェーディング、直線性、エネルギー特製等に関する補正係数を考慮するとのことであった。測定の再現性については、RPCでの測定では相対標準偏差で1.5程度以下ということで、わが国で使用が検討されている郵送ガラス線量計とそれほど大差ないようである。施設間で線量がどの程度ばらつくかについては、1991年から1998年の間の光子に対する27631件の測定結果を解析した結果、TLDによる線量測定結果と処方された線量の比は平均で1.005、相対標準偏差が1.85%ということであった。なお、+-7%を上回る相違があった事例は照射ミスと判断され、これらの結果には考慮されていない。一方、RPCの活動とは独立に、同じ課に属する放射線線量測定サービス(Radiation Dosimetry Service:RDS)では、各施設からの求めに応じ、有料でTLDによる郵送調査を実施している。 施設訪問調査(On-site Reviews) 施設訪問調査では遠隔的調査とは対照に、RPCのスタッフが施設に赴いて品質を調査する。その目的は、対象施設における線量評価や品質保証手続きの弱点を見極め、その改善法を提案すること、ならびに臨床結果を評価するために必要となる線量に係るデータを収集及び検証することにある。調査の対象となるのは、5%を上回る原因不明の線量の不一致を示す施設である。本調査には、RPCの6人の医学物理士と4人の線量測定士及び時にはMDアンダーソンがんセンタークリニックのスタッフが当たる。施設訪問調査では事前の準備が非常に重要出るという説明があった。調査対象となる施設の履歴の把握あるいはその施設のスタッフとの事前の綿密なコミュニケーションが欠かせないとのことで、これは調査を受ける側からすればある主の疑いをかけられていることを考慮すれば理解できるところである。一般的な検査項目は、線量に係る装置の入力パラメータ、品質保証手続き法やその文書化、治療計画装置の計算アルゴリズムと品質保証、患者投与線量、職員へのインタビュー等から成る。線量測定の調査では、それぞれ投与線量が+-5%、モニターの校正が+-3%、相対線量は+-2%、機械的精度が+-3mm以下であるかどうかを確認する。施設訪問調査の効果について尋ねたところ、TLDの調査で+-5%の不一致を示す施設が年によっては全体の1割程度存在したが、施設訪問によってこのうちの約9割は改善できたということであった。こうした活動の成功の条件として、担当者は次の項目を強調していた。 ・認定された専門家による調査 ・国家標準にトレーサブルな機器の使用 ・施設に改善の意欲があること ・調査の秘匿性 ・調査の実施者と受ける側の間に利害対立のないこと ・訪問期間中に問題を解決すること ・問題点が理解できるような教育を施すこと \nこれらは、わが国の放射線治療の品質管理を考える上で、大変示唆に富むものといえよう。 \n審査(Credentialing) 上記のような調査に加え、臨床試験で投与される線量が比較可能でかつ一貫性のあるものであるとの信頼性を確保するため、RPCでは臨床試験に係る審査にも貢献している。写真には照射各部位を模擬するRPCの人体ファントムを示す。これらファントムにはTLDやラジオクロミックフィルムが内臓可能で、強度変調放射線治療(IMRT)やTomoTherapyといった複雑な照射法に対する治療計画の信頼性を実測によって評価するシステムが構築されている。複雑な治療計画では実測データとの間に開きが見られる場合も散見されるそうである。RPCの調査を受けない場合、ある研究グループで使用された投与線量に関し全体の36%にエラーが生じていた事例も存在したとのことで、こうしたRPCの取り組みにより、教育的効果、線量投与の能力向上さらにはプロトコルについての理解の改善が図られ、信頼性の高い臨床試験の実施に資することが期待されている。 \n以上のとおり、RPCで放射線治療の品質保証のための取り組みが活発に展開されており、複雑化が進む放射線治療の品質保証に大きく貢献している。冒頭に述べたとおり、わが国でも「放射線療法の品質管理が十分に行われるよう、適切な措置を講ずるとともに、あわせて、専門的な人材の育成に努めること」が求められており、国のがん対策推進基本計画の策定作業もまさに本格化しようとしている。今年度よりRDSのような郵送ガラス線量計を用いた出力線量測定サービスの事業化が医用原子力技術研究振興財団においてスタートするが、これを契機に米国のRPCをモデルとした放射線治療の品質管理体制の整備についても議論されるべき時期に来ているのではないだろうか。 |
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書誌情報 |
医用標準線量 巻 12, 号 1, p. 1-4, 発行日 2007 |