@misc{oai:repo.qst.go.jp:00064806, author = {鈴木, 雅雄 and アッサワプロンポーン, ナロンチャイ and 舟山, 知夫 and 横田, 裕一郎 and 武藤, 泰子 and 池田, 裕子 and 鈴木, 芳代 and 服部, 佑哉 and 小林, 泰彦 and 鈴木 雅雄 and アッサワプロンポーン ナロンチャイ}, month = {Oct}, note = {1. はじめに  放射線を全身に急性的に大線量被ばくした場合の人体影響は、広島・長崎における原子爆弾投下後の長年の疫学調査からその実体をある程度把握することが出来る。一方、それ自体の被ばくでは人体影響が現れないとされる低線量放射線の慢性的な長期反復被ばくに対する人体影響は、低線量(率)放射線に対する生物影響研究が高線量放射線に対する生物影響研究に比べて進んでいないため、高線量域での生物影響を目標とする低線量域に外挿してその生物影響を推定することしか出来ないのが現状である。  このような低線量(率)放射線被ばく環境、特に粒子放射線に起因する時間的・空間的低フルエンス照射環境では、人体組織は放射線が直接照射された細胞と直接照射を受けない細胞との混合細胞集団によって構成されることが想定出来る。これまでの放射線生物学では、放射線照射された細胞集団に対する生物効果は放射線を直接受けた細胞に起因するものであり、放射線を受けていない細胞は生物効果に寄与しないとする大前提のもとにその混合細胞集団を一つの被ばく集団として解析されてきた。しかしながら、近年ヘリウムイオンマイクロビーム放射線やプルトニウムから放出されるα線を用いた研究より、直接放射線を受けた細胞からの何等かのメカニズムによってその近傍に存在する直接放射線を受けていない細胞にも同様の生物効果が生じるとするバイスタンダー効果を仮定しなければ説明の付かない実験結果が多数報告されてきている。バイスタンダー効果の詳細な研究には、より高精度に制御された放射線照射方法を放射線生物学の研究に応用することが必要不可欠であるが、世界各地で実施されている研究はヘリウムイオンを用いたものが主であり、ヘリウムよりも原子番号の大きな核種のイオンビームを用いた生物影響研究は非常に限られている。  本研究は、TIARA重粒子線マイクロビーム照射装置を駆使して、ヘリウムよりも原子番号の大きな核種のイオンのマイクロビーム照射に対するヒト培養細胞の生物効果とそのバイスタンダー効果の放射線線質依存性を明らかにし、宇宙環境での高エネルギー重イオン低フルエンス被ばくの人体影響解明や重イオンによるがん治療の更なる高度化を最終目的として進めている。本年は、炭素、ネオン、アルゴンイオンマイクロビーム照射に対するヒト正常細胞および炭素イオンマイクロビーム照射に対するがん細胞の生物効果におけるバイスタンダー効果の線質依存性を調べた研究成果を報告する。 \n2.実験方法  重イオンマイクロビーム照射は、TIARAの炭素イオン(220MeV)、ネオンイオン(260MeV)、アルゴンイオン(460MeV)を用いて行った。直径36mmのアクリル製リングの底面に厚さ7.5µmのpolyimide filmを付着させたマイクロビーム照射用シャーレ面上にコンフルエント状態に培養した細胞に対して16x16=256点の格子状に照射を行った(図1)。各照射点に対して直径20µmのビームサイズでマイクロビームを照射した。この照射法では、隣り合った照射点間の距離は細胞一つの大きさに対して十分に大きく、マイクロビームディッシュ上の全ての細胞数に対してマイクロビームが照射された細胞の割合は0.036% と容易 に計算される。                                図1.重イオンマイクロビーム格子状照射法                                                                                                   2−1.ヒト正常細胞の致死効果および突然変異誘発効果に対するバイスタンダー効果の線質依存性  ヒト正常細胞は、公的な細胞バンクより入手したヒト皮膚由来正常線維芽細胞を用いた。マイクロビームは各照射点に対して、炭素イオン8個、ネオンイオン2個、アルゴンイオン1個をそれぞれ照射するように計画した。同時にバイスタンダー効果誘導メカニズムを明らかにする目的で、ヒト正常細胞において活性化しているギャップジャンクションに焦点を絞り、その特異的阻害剤を併用して細胞間情報伝達機構のバイスタンダー効果への関与を調べた。細胞致死効果は、コロニー形成法による細胞の増殖死として検出した。突然変異誘発効果は、X染色体上にマップされるHPRT遺伝子座を突然変異の標的遺伝子として、6チオグアニン耐性コロニーの出現頻度より突然変異誘発頻度を算出した。 \n2−2.炭素イオンによるヒトがん細胞の致死効果に対するバイスタンダー効果のP53遺伝子依存性 ヒトがん細胞株は、公的な細胞バンクより入手した正常型P53遺伝子を保ったがん細胞二種類と変異型P53遺伝子を保ったがん細胞三種類を用いた。細胞致死はコロニー形成法による細胞の増殖死として検出した。256点の格子状照射点に対して炭素イオンを8個照射した。 3.結果と考察 3−1.ヒト正常細胞の致死効果および突然変異誘発効果に対するバイスタンダー効果の線質依存性  得られた実験結果を図2に示す。細胞致死効果(上段)は、炭素イオン照射群のギャップジャンクション特異的阻害剤を併用しない場合のみで90%弱となり、併用した場合はほぼ100%となった。一方、ネオン・アルゴンイオンの結果は、ギャップジャンクション特異的阻害剤の併用・非併用に関係なく、細胞生存率はほぼ100%となった。次に突然変異誘発効果(下段)は、炭素イオン照射群のみで突然変異誘発頻度は非照射群に対して約6倍高くなった。256点の格子状照射では、マイクロビームが直接照射される細胞は全細胞数に対して0.036%と計算される。このことから今回得られた炭素イオンの実験結果は、イオンが直接ヒットした細胞のみに生物効果が生ずると仮定すると予想を遙かに超えて生物効果が生じていることとなり、直接イオンの照射を受けていない細胞にも何らかのメカニズムで生物効果が誘導されたと考えないと説明が出来ない(バイスタンダー効果の誘導)。また、観察されたバイスタンダー効果の誘導には、ギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構が密接に関与していることが示唆された。  得られた重イオンマイクロビームの結果と低LET放射線であるX線(高エネルギー加速器研究機構)とプロトン(放医研)のマイクロビーム照射実験結果と合わせて、ヒト正常細胞の生物効果に対するバイスタンダー効果の誘導には、放射線線質依存性が存在することが強く示唆された。 \n \n \n \n \n \n \n \n \n \n図2.各種放射線マイクロビーム格子状照射に対するヒト正常細胞の致死効果(上段)と突然変異誘発効果(下段)。IRはマイクロビーム照射群、L+IRはギャンプジャンクション特異的阻害剤を併用した群を示す。Controlはマイクロビーム非照射群、L+Cont.はギャンプジャンクション特異的阻害剤を添加した非照射群を示す。X線マイクロビームは高エネ機構、プロトンマイクロビームは放医研の装置を用いて行った。 \n3−2.炭素イオンによるヒトがん細胞の致死効果に対するバイスタンダー効果のP53遺伝子依存性  得られた実験結果を図3に示す。炭素イオン照射群の細胞生存率は、ギャップジャンクション特異的阻害剤の併用・非併用に関係なく、変異型P53遺伝子を保ったがん細胞でほぼ100%となった。一方、正常型P53遺伝子を保ったがん細胞では90%前後となり、ギャップジャンクション特異的阻害剤を併用することによって生存率は100%に上昇した。この結果は、ヒト正常細胞(正常型P53)の結果と一致した。遺伝子レベルにおけるバイスタンダー致死効果誘導メカニズムの詳細はいまだに不明であるが、がん抑制遺伝子の一つであるP53遺伝子がバイスタンダー効果誘導に重要な役割を果たしていることが示唆された。 \n \n \n \n図3.炭素イオンマイクロビーム格子状照射に対するヒト由来がん細胞の致死効果に対するバイスタンダー効果のP53遺伝子依存性。IRはマイクロビーム照射群、L+IRはギャンプジャンクション特異的阻害剤を併用して細胞間情報伝達を抑制した群を示す。, 第7回高崎量子応用研究シンポジウム}, title = {線質の違いがバイスタンダー効果に及ぼす影響}, year = {2012} }