@article{oai:repo.qst.go.jp:00058373, author = {松本, 孔貴 and 松本 孔貴}, issue = {4}, journal = {放射線生物研究}, month = {Dec}, note = {平成24年度の第21回日本がん転移学会学術総会は、7月12日(木)と13日(金)の2日間に渡り、広島大学の安井弥先生を大会長として広島市のオリエンタルホテル広島にて開催された。会場の外は雲が多く、所により雨が降るなど安定しない天気であったが、会場内は熱気に満ち満ち、興味深い講演と活発な質疑応答が交わされた。  初日最初のワークショップ1とシンポジウムⅠは腫瘍内の微小環境とがん転移の関係に焦点を絞った発表が行われた。なかでも大阪府立成人病センター研究所の伊藤和幸先生のご講演が興味深く、伊藤先生らが樹立された肺転移を起こす高転移株として知られる骨肉腫由来LM8細胞とその親株であり低転移性のDunn細胞を用いて、転移先臓器特異性を系統的に調べた研究である。LM8とDunn細胞を皮下移植して腫瘍を作成し、血管内に流れ出た細胞数(circulating tumor cells:CTC)を調べるとLM8移植群で有意に多いが、そのCTC細胞を抽出して尾静脈から注射しても作られる転移は両細胞間で差がなく、またCTCを柔らかいコラーゲン内で培養すると増殖することができず、このことから血管内に流れ出た細胞全てが転移に関わるわけでなく、それらの細胞が転移巣を作りやすい足場環境が重要であることが分かる。  その後に続いたレクチャー講演Ⅰでは、細胞から放出される小胞体Exosomeと転移との関係性について国立がん研究センター研究所の落合孝弘先生がご講演された。従来細胞内の不要物の細胞外への排出を担うExosomeが細胞間情報伝達に密接に関与することが近年明らかにされ、またがん細胞とその周囲にある正常細胞や周囲の血管内皮、リンパ管との相互作用をExosomeが仲介することで、がん細胞自身の立場を有利に導くシステムが存在する事も分かってきた。がん細胞由来のExosomeは浸潤性の増殖、接着、血管新生、免疫抑制、シスプラチンなどの化学療法への耐性にも密接に関わること、さらには今年に入り放射線によりExosomeが放出され、Bystander effectの担い手となる事も報告された。このExosomeを標的とすることで新しいがん治療が可能となると考える。  本学会で一番インパクトのあったのは、MDアンダーソンがんセンターから来日されたIsaiah J Fidler博士による講演だった。Fidler博士は、Macitentanと言うEndothelin受容体の阻害剤と従来の化学療法剤を併用することで、神経膠芽腫に対する治療効果が目覚ましく亢進するというものである。その効果はまさにイチゼロであり、Macitentanを併用しないタキソールやテモゾロミドではマウスに対する移植腫瘍に対する抗腫瘍効果はほとんど得られなかったのに対し、Macitentanを併用することで腫瘍は完全に消失した。この効果のメカニズムには脳腫瘍に対する薬剤治療において常に問題とされる血流脳関門(Blood Brain Barrier)ではなく、Astrocyteが密接に関わっている。Astrocyteと神経膠芽腫細胞を共培養すると、単独培養環境に比べ神経膠芽腫細胞は薬剤に対して桁違いの抵抗性を示す。Macitentanはこの細胞情報伝達を阻害する事で、Astrocyteによる神経膠芽腫の保護を阻害する働きを有する。Fidler博士はこの現象を述べるに当たり、「防弾チョッキを着た敵をいくら撃っても効かない。まずは防弾チョッキを脱がせることが重要だ」と述べている。新しい切り口から薬剤耐性を克服した、大変興味深い報告であった。  本学会は例年放射線に関する発表は極めて少なく、今年も私を含めて2件しか報告がなかったのは寂しい限りである。しかし、がん治療という観点から数多くの新しい知見や実験手法などが報告され、自分の研究を新しい観点から見直す良いきっかけとなった。放射線治療においても転移を制御し、患者の生存率を向上させる治療法の確立は重要な課題であることから、今後本学会への放射線関連の研究者が多く参加することを願ってやまない。}, pages = {431--432}, title = {第21回日本がん転移学会学術総会 印象記}, volume = {47}, year = {2012} }